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仙台地方裁判所 昭和26年(行)31号 判決

原告 江刺孝之助 外一名

被告 宮城県知事

一、主  文

被告が原告江刺の訴願に対して為した昭和二十六年十一月二日附裁決第二千二百五十五号の裁決を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として仙台市新伝馬丁四十一番宅地百四十二坪七合五勺は原告江刺の所有であるが、仙台市の特別都市計画法による都市計画の施行区域に編入され、予て道路予定地として指定されており、その後、その換地予定地として従前の同市東三番丁百四十九番の二及び同番の三の一部第十六ブロツク第二十六号の一(別紙図面参照)が指定され、昭和二十四年十月四日その通知が為された。原告江刺は昭和二十五年四月四日右換地予定地の一部四十坪(別紙図面参照)に対する権利を訴外大内貞美に売渡し、原告会社はその後大内から更に右四十坪の権利を買受けた。

しかるに、仙台市長は昭和二十二年九月二十九日附特別都市計画法施行令第四十五条による訴外牧田辰雄の権利申告に基き昭和二十五年六月七日訴外石田信雄に対し、右牧田の借地権の目的たる土地の換地予定地として前記第十六ブロツク第二十六号の一の一部(別紙図面参照)を指定したことを通知したので、原告江刺は同年七月八日右換地予定地の指定処分の違法を主張して被告に訴願したが、昭和二十六年十一月二日棄却の裁決があつた。

けれども、前記の通り新伝馬丁四十一番宅地は道路予定地に指定されていたので、原告江刺はその換地予定地の指定があり次第住宅及び店舗の再建をしようと思つてこれを待つていたのであるが、昭和二十一年夏頃訴外富沢俊清の申込により、同人に対し右宅地中新伝馬丁通に面した部分五十坪を、右宅地に対する換地の指定がある迄一時賃貸し、右富沢は右地上に約十坪位の木羽葺バラツク一棟の建築を始めたけれども、同年末頃未完成のまゝこれを原告江刺に無断で、訴外牧田辰雄に売渡し、牧田は更にこれを訴外石田信雄に売渡した。従つて、訴外牧田及び石田が右建物を取得したことについてはその間転貸借又は賃借権の譲渡ということはなく仮にかような事実があつたとしてもこれを以て原告等に対抗しえない。仮に対抗しえたとしても右借地権は前記原告江刺に対する換地予定地の指定の通知の日に期限が到来し終了したのであるから、その後に至つて為された賃借地に対する換地予定地の指定の通知の日に期限が到来し終了したのであるから、その後に至つて為された賃借地に対する換地予定地の指定処分は違法である。而して原告会社は右賃借地の換地予定地中原告江刺から権利を譲受けた部分(別紙図面参照)の地上に瓦葺モルタル塗二階建事務所兼居宅一棟建坪三十一坪外二階二十二坪を所有しており、原告江刺は現に仙台市長から右建物の移転命令を受けているから、原告等はいずれも前記賃借地の換地予定地指定処分の取消を求めるについて利益を有する。よつて、本訴により指定処分を支持した本件裁決の取消を求めるのであると述べ、被告の主張に対し、原告江刺が被告の主張する通り本件裁決について建設大臣に対し訴願したことはこれを認める。けれども、原告は原処分に対し被告に訴願し、その裁決に対し本訴を提起したのであるから、訴の提起について適法要件を具備している。又上級行政庁に対する訴願は訴とは異るから、被告の上級行政庁たる建設大臣に訴願を為すと同時に本訴を提起しても、之を以て二重訴訟或は濫訴ということはできない。仮にそうでないとしても建設大臣に対する訴願後三月を経たのに之に対する裁決がないから、訴提起の要件を具備するに至つた。原告会社は訴願をしなかつたけれども、原告江刺の為した訴願の裁決の取消を求めるについて法律上利益を有するから本訴の原告をしての適格を有すると答えた(立証省略)。

被告訴訟代理人は先づ原告等の訴を却下するとの判決を求め、その理由として、原告江刺は昭和二十六年十二月五日本件裁決につき建設大臣に訴願し、次で右訴願の裁決前本訴を提起したのであるから二重に取消を求めるものであるから濫訴というべきで不適法である、尚前記建設大臣に対する訴願については未だ裁決がないと述べ

本案につき原告等の請求を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め、答弁として原告等主張の事実のうち原告江刺と訴外富沢俊清との間の賃貸借が原告等主張のように一時賃貸借であること、右富沢から訴外牧田辰雄を経て訴外石田信雄に対する建物の所有権の移転が原告江刺に無断で為されたこと及び原告会社が原告江刺に無断で為されたこと及び原告会社が原告江刺から訴外大内貞美を経て本件宅地に対する換地予定地の一部の権利を譲受けたことは知らないけれどもその他の事実は何れも之を認める。仮に原告等主張の通りの事実であつたとしても、原告会社は本件についての訴願を為さず従つて本件裁決をうけたものでないから同原告はその取消を求める本訴につき原告としての適格有せず同原告の本訴請求は棄却せらるべきであると述べた(立証省略)。

三、理  由

原告江刺が昭和二十六年十二月五日本件裁決に対して建設大臣に訴願したことは当事者間に争がない。けれども特別都市計画法によると同法第二十六条により準用される都市計画法第二十五条第二項第二十六条によれば、行政庁の違法処分によつて権利を毀損せられたとする者は裁判所に出訴することはできるけれども同一の理由によつては主務大臣に訴願することはできず、右以外の理由によつてのみ主務大臣に対し訴願することができると解すべきである。

従つて、主務大臣に対する訴願と裁判所に対する訴とはその審理の内容を異にし、その結論の矛盾来すおそれはなく、又、その一を以て他に代えることはできない関係にあるのであるから、本件において、原告が先に建設大臣に訴願し、後、更に本訴を提起したことは、同一の行政処分について二重に取消を求めるものであることは、被告の主張する通りであるけれども、これがため濫訴として右訴を違法ならしめるものではない。

次に仙台市新伝馬丁四十一番宅地百四十二坪七合五勺が原告江刺の所有であつたこと、右宅地は仙台市の特別都市計画法による都市計画の施行区域に編入され予て道路予定地として指定されていたこと及び原告等主張の通り右宅地の換地予定地が指定されその通知が為されたことは何れも当事者に争がなく、成立に争がない甲第四号証、原告江刺の本人尋問の結果により成立を認めうる甲第三号証及び原告江刺の本人尋問の結果によれば、原告江刺は昭和二十五年四月四日右換地予定地について有する権利の一部を訴外大内貞美に売渡し、原告会社は同月二十日大内から右権利を買受け、同年五月十九日前記新伝馬丁四十一番宅地十分の四について一部所有権移転登記を為したことが明かであるし、又、その後仙台市長が原告等主張の通りの経過で訴外石田信雄に対し、訴外牧田辰雄の賃借地の換地予定地の指定の通知を為し、原告江刺が右処分につき被告に訴願し、棄却の裁決があつたこと及び前記新伝馬丁四十一番宅地の換地予定地中右賃借地の換地予定地として指定された部分は、原告会社が原告江刺から訴外大内を経て買受けた権利の目的たる区域の大部分を占めこの地上に原告会社は原告等主張の建物を所有し、仙台市長が原告江刺に対し右建物の移転命令を為したことは何れも当事者間に争がない。

被告は、原告会社は本件について訴願を為さず従つて本件の裁決を受けたものでないから本訴について原告としての適格がないというけれども、行政訴訟において原告として訴を提起しうるには必ずしも当該処分の相手方であることを必要とせず第三者に対する処分であつてもこれにより権利を毀損せられたものは原告として行政訴訟を提起することができると解すべきである。前に認定した事実によれば、右訴願の裁決が確定し、その結果として前記賃借地の換地予定地の指定処分を争うことができなくなつた場合原告会社は原告江刺から譲受けた換地予定地に対する権利を毀損せられ或は右権利の目的たる土地上の建物を収去せられるに至る虞のあることを認めることができるから、同原告は本訴につき原告たるの適格を有すると認めるのが相当である。

よつて、前記賃借地の換地予定地指定処分が違法であるかどうかの点について判断を為すと、昭和二十一年夏頃原告江刺が訴外富沢俊清に対し前記新伝馬丁四十一番宅地中五十坪を賃貸したことは当事者間に争がなく、証人富沢俊清の証言により成立を認めうる甲第一、二号証の各一、二同乙第一号証の二、第五号証、証人富沢俊清の証言及び原告江刺の本人尋問の結果によれば、原告江刺は元新伝馬丁四十一番宅地上に店舗を有していたが戦災により焼失したので従前の場所に店舗を復興する意思であつたが、同所は仙台市の特別都市計画法による都市計画の区画整理により道路予定地となつており、同原告は市会議員の清水源太郎から右宅地は東二番丁線の拡張のため道路敷地になる処だから建築を為すならば簡単なものにしておく方が得策であるといわれていたので建築を差控えていたところへ訴外富沢俊清から右宅地の賃借の申込を受けたので、道路敷地になる場所であることを理由として之を拒絶したが同人から道路敷地になるまででよいから貸せといわれ、特に仙台市の都市計画による道路になるまで、又若し右宅地が道路にならなかつた場合には原告江刺の必要に応じ何時にても地上物件を取払い明渡を為すことを確約して同人に賃貸したこと、富沢は右宅地を賃借すると直ちに右地上に約十五坪のバラツク建店舗付住宅の建築に着手したが資金が欠乏したため同年八月二十八日右建物を前記牧田辰雄に売渡し、同時に右宅地に対する賃借権をも譲渡したことを認めることができ、証人富沢俊清の証言によれば右富沢は右賃借権譲渡につき後に至つて原告江刺の承諾をえたことを認めることができ、原告江刺の本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用できない。従つて、原告江刺と富沢との間の前記宅地を目的とする賃貸借は右賃貸借の前後の事情及びその趣旨から判断して、仮設建築物の所有を目的とし、換地予定地の指定処分の結果として右宅地の使用収益が許されなくなる迄の間を期間とするものと認めるのが相当であつて、かような賃貸借は借地法第九条の臨時設備その他一時使用の為に為されたものと解すべきである。而して、牧田がその後右建物を前記石田に譲渡したことは当事者間に争がないけれども、牧田と石田との間に賃借権の譲渡又は転貸借が為されたことゝこれについて原告江刺の承諾があつたことについては之を認めるに足る証拠がない。しかも、前記新伝馬丁四十一番宅地について換地予定地の指定通知が為されたことについて当事者間に争がないことは先に説明した通りであるし、証人関山孝作の証言によれば右地上建物について仙台市長の移転命令が為されたことが明かであるからかような事情の外本件口頭弁論の全趣を綜合して判断すれば右新伝馬丁四十一番宅地は原告江刺が右宅地の換地予定地を訴外大内貞美に譲渡した当時既にその使用を許されなくなつていたと認めるべきであるから、同原告と牧田との間の右宅地の賃貸借もその当時終了したと認めることができる。従つて、既に消滅した原告江刺と牧田との間の前記賃貸借の目的たる宅地について、何等之について権利を有しない石田に対して為された前記換地予定地の指定処分は違法というより外はなく、右換地予定地の指定処分を適法として支持し原告江刺の訴願を棄却した本件裁決も亦違法といわざるを得ない。

よつて右裁決の取消を求める原告等の本訴請求は理由があるから之を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する次第である。

(裁判官 松尾巖 飯沢源助 野村喜芳)

(別紙図面省略)

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